終活ご注意 「デジタル遺言」では安心できない
自分が死ぬときに備え、生前から葬儀や相続の手はずを整えておく「終活」が関心を集めています。葬儀サービスを体験できる展示会や相続税、遺言について学べるセミナーも増えてきました。SNS(交流サイト)のアカウントや公開情報をどう処理するかといった「インターネット終活」も取り沙汰されるご時世ですが、こと相続に関してはデジタル対応が遅れているのが実情です。
自分にどんな財産があり、誰にどう相続させるかをパソコン上でまとめておきたい気持ちは分かるが…
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自分にどんな財産があり、誰にどう相続させるかをパソコン上でまとめておきたい気持ちは分かるが…
例えば電子文書の「効力」の問題があります。「不動産は長男の太郎に、A銀行の預金は長女の花子に、B証券の投資信託は次男の二郎に」……。こんなふうに自分の財産をどう相続させるかの考えをまとめ、パソコン上に保存する方もいると思います。
財産の帰属が明らかになりますし、そのままメールに添付して送れば差出人も日付も分かる形となり、「遺産はこのように分けなさい」という指示が具体的な記録として残るように思えます。ところがいざ相続する際、このデータを根拠に手続きを進めようとしても、実際はそう簡単にはいかないのです。
現在の日本の法律では、ネットやパソコン上のデータ、動画のメッセージなどは、原則として遺言にはあたらないとされています。たとえ故人が遺族のために正確な内容で、思いを込めて残した記録だとしても、残念ながらそれだけで有効にはなりません。故人の意向を知る一つの材料にはなるかもしれませんが、その内容が即実現するような法律上の強制力はない、という結論になるのが現状です。
やはり法的な効力を持つ遺言にするためには、公証役場を利用して正式な法律文書を作成してもらうのが確実です。あるいは自分で書く場合でも(1)全文自筆であること(2)署名があること(3)日付があること(4)押印があること――などの細かなルールを一通り順守する必要があります。
電子データによる遺言はあくまで副次的なものにとどまります。これだけIT(情報技術)やデジタルサービスが進化を遂げている世の中でも、法律がデジタル文書による遺言を正式なものとして認めるには、まだまだアナログの壁が立ちはだかっているのです。
このような法律上の難問はありますが、7月からはヤフーが終活を支援する「Yahoo!エンディング」サービスを立ち上げるなど、ネットやデジタルを活用した「最期への備え」は広がりを見せつつあります。高齢の親を持つ世代だけでなく、終活を意識し始める親たちもネットやスマートフォンを使いこなす人は珍しくありません。相続や遺言の問題についても我がこととして関心を持ち、積極的に情報を集める動きは進んでいくでしょう。
「立つ鳥跡を濁さず」の精神で、自分の死後のことについて生前からきちんと備えておこう、というニーズがあるのは確かです。それに応えるのがアナログの形であれデジタルの形であれ、しっかりと利用者の希望に沿うサービスであれば、いずれは相続の世界にも定着していく可能性はあるでしょう。
記事引用元(http://www.nikkei.com/money/features/17.aspx?g=DGXNASFK24009_24072014000000)
この記事を監修した行政書士
P.I.P総合事務所 行政書士事務所
代表
横田 尚三
- 保有資格
行政書士
- 専門分野
「相続」、「遺言」、「成年後見」
- 経歴
P.I.P総合事務所 行政書士事務所の代表を務める。 相続の相談件数約6,000件の経験から相談者の信頼も厚く、他の専門家の司法書士・税理士・公認会計士の事務所と協力している。 また「日本で一番お客様から喜ばれる数の多い総合事務所になる」をビジョンに日々業務に励んでいる。