相続登記申請が義務化された!いつから?義務化以前の相続はどうなる?
「相続登記が義務化される」ということを最近ではよく目にしたり耳にしたりすることが多くなりました。
「親から相続したけど、相続登記をしなくても実際に住んでいるからなにも問題がない。」
「姉も相続人だけど長年住んでいることを許してくれているから多分問題ないだろう。」
「兄弟姉妹が共同相続人だけど遺産分けでもめそうだからそっとしておこう。」
などと相続登記をしないで放置している方は多くいます。
しかし、実際にいざ相続登記をしたくてもなかなか印鑑を押してもらえない事案も多くあるのです。
今回は、相続登記申請がいつから義務化されるのか、義務化される前に発生した相続の扱いはどうなのか、その他今回の義務化に関連しての改正点について解説します。
相続登記義務化のポイント
相続登記とは、土地や建物など不動産の所有者が亡くなったときに亡くなったことを原因として亡くなった方から相続人への所有権移転登記を法務局に対して申請することです。
今回の相続に関わる民法改正では、相続登記に関連した下記の事項について義務化や簡略化が定められています。
1.相続登記の申請が義務化
2.相続人申告登記の新設
3.所有者の住所・氏名変更の登記申請も義務化
4.相続土地の国庫帰属制度
5.所有不動産記録証明制度(仮)の創設
6.遺贈による登記申請の簡略化
7.法定相続分で相続登記されている登記変更の簡略化
8.共有制度の見直し
この記事では上記のうち1.~4.について解説します。
なお、相続登記の方法や必要書類については最後に解説します。
変更内容については下記のリンクを参照してください。
民法等の一部を改正する法律案要綱.
法務省
所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し
なぜ相続登記は義務化されるのか?
相続登記が義務化されるのは、「所有者不明土地」の解消が目的とされています。
「所有者不明土地」という言葉は最近新聞やニュースで再三とりあげられていますから目にされたことはあるでしょう。
所有者不明土地は、近年は自然災害が多発しており復旧復興事業の妨げになっていること、市街の再開発にも不在者不明土地があるために公共の道路が敷設できないなど支障があることなどから所有者不明土地の解消が課題になっていました。
国土交通省が公表している「所有者不明土地の実態把握の状況について」によると、全国の拡大推計結果では所有者不明率は約2割、土地面積では約410万ha(九州の土地面積368万ha)となっています。
九州の土地面積よりも広い土地の所有者が不明であれば災害復興においても、また普段の公共事業においても所有者不明土地がその妨げになっていることは明らかであり、国としてもその解消に本腰を入れざるを得なくなったわけです。
現在のところ、市街地の土地や建物の相続登記は急いでするけれど、「資産価値が低い」「管理が面倒」などの理由から山林や農地の相続登記はしない方が多く、中には山林や農地については相続放棄をしたいと思っている方が多いのが現状です。
もちろん、相続放棄は相続財産全体について放棄しなければなりませんから、市街地だけ相続して山林や農地だけを放棄することはできません。
所有者不明土地とまでいかないまでも、相続登記をしないで放置されている不動産は実際に多くあります。
相続登記をしなくても、日常生活においては何ら支障がないように思われるかもしれませんが、売却する際には登記がされていないと売却ができません。いざ売却をしようと名義を調べたら何代も前の方が所有者だったら大変な作業が必要になります。
中には段ボール箱2箱では足らないくらいの戸籍が必要になり、相続人は100人を超えている事例もあります。
このように相続人が増えると行方不明者や既に亡くなっているのにその記録がない方もいますし、簡単に印鑑を押してくれない方もいて手続きが進まないこともあります。
復旧復興事業や公共事業のためだけではなく、個人の財産を守るためにも義務化に先立ち相続登記を自ら行っていくのがよいでしょう。
相続登記の義務化はいつから?
令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されることに決定しました。
相続登記の申請期限は3年以内とされていて、その期限は次のいずれか遅い時からスタートします。
相続が開始したことを知ったとき
所有権を取得したことを知ったとき
通常の法改正では、改正後の事例について適用することがほとんどで、改正前の事例については適用されないことが多いのですが、今回の相続登記の義務化は改正前に発生した相続についても適用されることに注意しましょう。
令和6年4月1日から改正法が適用されますから、改正時に前記の要件にあてはまる場合の申請期限は令和9年4月1日となります。
申請義務違反のペナルティは「10万円以下の過料」とされています。
なお、過料は行政罰であり、刑事罰である科料などと異なり前科はつきません。
不動産登記法には、以前から表題登記には申請義務がありましたが、こちらが適用されて過料が課された事例はないようです。
しかし、今回の改正は所有者不明土地の解消が目的とされているので、過料が適用される可能性は高いでしょう。
期限内に登記ができないときはどうすればいい?
相続登記が申請できなくても相続人の申告をすれば相続登記申請の義務を果たしたことになる便宜的な制度が新設されています。
相続が開始しても遺産分割協議がなかなか整わないので相続登記の申請ができない場合に、義務違反だとして過料を課すのは酷であり国民の理解を得られないため設けられた措置です。
相続人のうち1人だけから相続人であることを申告でき、申告した方については相続登記の義務を果たしたことになります。
添付書類は、亡くなった方の戸籍謄本・住民票の写し、相続人(申告人のみ)の戸籍謄本・住民票の写しになると思われます。
他の相続人についての情報は要求されません。
なお、登録免許税は非課税とされています。
所有者の住所・氏名変更の登記申請も義務化
令和3年4月28日の公布後5年以内に施行されることになっていますが、現在のところ具体的な施行日は決まっていません。
住所や氏名に変更があったときに、変更があったときから2年以内にその旨の登記をしなければならなくなります。
個人だけではなく、会社などの法人についても適用されます。
ペナルティは5万円以下の過料です。
相続土地の国庫帰属制度
相続土地国庫帰属制度とは、相続によって取得した土地が不要であれば国が取得してくれる制度です。
令和5年4月27日から施行されます。
現在でも所有権の放棄は可能で、無主物は国のものになることになっていますが、どんな土地でも国のものになってしまうと管理費用も莫大になることもあり、国が引き取る登記手続きには協力することはありませんでした。
寄付や相続税の物納も国の定める条件に合わなければ、国が受け付けることはありません。
今回の国庫帰属制度においても同様に国が引き取るための条件が定められています。
土地上に建物がないこと
担保権や使用収益権などが設定されていないこと
土地の境界が明確であること
地下埋設物がないこと
など所有しても負担がない優良な土地であることが求められています。
また国庫に引き取ってもらうために必要な調査があれば調査費を負担して、10年分の管理費を納める必要もあります。
相続登記の方法・必要書類
不動産所在地を管轄する法務局に対して申請人が相続人であることがわかるだけの資料を添付して所有権移転登記の申請を行います。
戸籍等は一度原本を法務局に提出します。
原本の返却を希望する場合は、コピーし、写しに相違ないことを添え書きしたうえで原本と一緒に提出すれば登記完了後に返却してもらえます。
登記申請は本人申請でも可能ですから、下記のリンク先を参照してください。
遺言書がある場合
- 遺言書
- 名義人(所有者)が亡くなったことがわかる戸籍謄本
- 名義人の除票(または戸籍の附票)
- 相続人(申請人)の戸籍抄本
- 相続人の住民票の写し
- 遺言執行者の資格を証明する資料(遺言書または遺言執行者の選任審判書)
遺言書は公正証書または法務局で保管していた自筆証書遺言を除いて「検認」を家庭裁判所で受けることが必要です。
「住民票の写し」とは役所で「住民票」を保管してあるため役所から発行してもらった原本が「住民票の写し」となります。
遺言書がない場合
- 亡くなった方の出生から死亡までの全ての戸籍謄本(「除籍」、「改製原」など呼び方が違うことがあります)
- 亡くなった方の住民票の写し(または戸籍の附票)
- 相続人全員の戸籍抄本
- 相続人全員の住民票の写し
戸籍は「相続登記に使用する」ことを役場・役所の窓口で言い添えればその役所でそろう戸籍等をそろえてくれることがあります。
本籍地の役場・役所でなければ戸籍を取得できませんので遠隔地であれば郵送で請求することになります。
それぞれの役場ではホームページで費用や請求用紙など請求時の説明を掲げていますから参照してください。
なお、名義人が亡くなった時に生きていなければ相続人になれませんから、添付する戸籍は名義人が亡くなった後に取得したものでなければなりません。
遺産分割協議を行った場合
前記の書類に加えて
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
が必要です。
遺産分割協議書には相続人全員が記名し実印を押捺します。
まとめ
相続登記が義務化されることは既に確定しており、義務化前に発生した相続にも義務化が適用されます。
義務化まで後2年弱の余裕があるとしても準備だけでもすすめておくことは無駄ではありません。
なるべく早く準備をしておけば万一何代も前の方が名義人となっていても対処しやすくなるからです。
相続登記の中には複雑で相続人を特定することが難しい案件や相続人同士ではなかなか話し合いができないような案件もあります。
相続で不安や悩みがあるようなときには、気軽に相談できる行政書士・司法書士に相談をお勧めします。
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この記事を監修した行政書士
P.I.P総合事務所 行政書士事務所
代表
横田 尚三
- 保有資格
行政書士
- 専門分野
「相続」、「遺言」、「成年後見」
- 経歴
P.I.P総合事務所 行政書士事務所の代表を務める。 相続の相談件数約6,000件の経験から相談者の信頼も厚く、他の専門家の司法書士・税理士・公認会計士の事務所と協力している。 また「日本で一番お客様から喜ばれる数の多い総合事務所になる」をビジョンに日々業務に励んでいる。